2023 年
人工知能
年次報告書
知的財産分野の主要な AI 専門家が
提供する最も先進的な洞察
前書き
長らく人工知能(AI)に関わってきた者としては、ChatGPTなどの大規模言語モデルの公開以降の、人々の意識や議論へのAIの浸透スピードには目を見張るものがあります。AIが「過大評価され過ぎている」と考えてきた人にとっては、2023年は、ある意味大きな転換期となりました。近年のAIに対する高い注目度が欧州特許庁(EPO)での特許出願数の増加に繋がるまではもう少し時間を要しますが、今後の動向も注視していきます。
欧州でのAI関連の特許出願数は着実に増加し続け、2021年~2022年のEPOでのAI関連の公開広報数は約17%の増加となりました。現在、EPOでのAI関連の特許出願数は、米国からが最多となっていますが、中国といった米国以外の国々からのAI関連の特許出願数も増加し始めており、過去4年間で米国の優位性は低下していると言えます。以前の報告書で触れた、韓国からのAI関連の特許出願数の増大に関しては、若干鈍化していますが、依然として韓国は、EPOでの人口一人当たりのAI関連の特許出願数が最も多い国となっています。
AI技術が十分成熟すると、実体経済へのAI技術の応用が今後加速するという予測を前回の報告書で明記しましたが、今回の分析結果はその予測通りとなっています。EPOでは依然として、医学・ライフサイエンス、電気通信および物理科学の分野が、AI関連の特許出願数が一番多い分野となっています。過去5年間の傾向を見ると、コンピュータビジョンについてのAI関連の出願の割合が大幅に増加しており、この分野に対して膨大な投資が投じられていることが明白です。一方、音声処理の出願数は相対的に低下し続けています。
最も注目されている発明分野は、メドテックであり、本報告書では、メドテックのAI特許出願に関する章を記述しています。メドテックAI関連の特許出願公開広報の前年比増加数は、2014~2021年までの各年のAI全般の特許公開広報の前年比増加数を上回りました。こういった状況から、メドテックはAI業界の重要な発展分野であることが明白です。2022年にEPOで公開された、メドテックAI関連の公開広報のうち、50%近くが医用画像または医療診断に関するものでした。このことから、昨今、メドテックAI関連発明は、治療そのものではなく、予測、予防、早期診断および早期発見に着目されている事が分ります。
当事務所の見解では、全体的にEPOでのAI関連の特許出願数および特許査定率は共に増大しており、これは、産業界によるAIへの多大な投資だけでなく、EPOによるAIの実用化に対する認識の高まりを反映していると言えます。
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調査方法
従来同様、今回の報告書で分析対象としたデータは、国際特許分類(IPC)コードおよび「WIPO Technology Trends 2019: Artificial Intelligence」調査内の特許データに使用されたキーワード用語(その定義については、同調査の「Data collection method and clustering scheme: Background paper」を参照)が基となっています。「Derwent Innovation」データベースから、上記の世界知的所有権機関(WIPO)の調査で使用される用語と合致した案件を特定、「Derwent Innovation」からの同データを、EPOの「European Patent Bulletin」のデータと統合させています。同データを分析する上で、上記のWIPOの用語に改良を施しています。未処理データから独自の計算式を書き出し、独自分析をしています。
本年の報告書からの変更点は、親出願と同じ出願日が付与される分割出願が、年毎の矛盾点が生じている事が分かったため、出願日ではなく公開日に基づいて分析を行っています。また、特許査定時にIPCコードが変更され、分析対象となる出願が変更される事にも留意しており、当分析にはIPCコードの変更を含めていませんが、各報告書が独立したものとなるように、出願傾向を調査ごとに示しています。
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AIは、発明者になれるのか?(DABUSについての最新情報)
生成系AI手法の急速な発展・採用を背景に、特許性のある発明を生み出したAIアルゴリズムが「発明者」と認められるのか?という問題が、一層注目を集めています。この問題は、「DABUS」という名のAIマシンを発明者として記載した一連の特許出願に関して、様々な管轄域で議論されています。これらの係争については、AIに関する過去の報告で詳細に取り上げましたが、最新の動向情報について簡単に紹介します。
以前の報告書で先述したとおり、2021年9月に英国の控訴院は、AIを主軸としたマシンは人ではないので、英国特許法の目的上の発明者にあたらないとの判断を下しました[1]。その後、2022年8月に、最高裁判所への上告が受理されました。上告が認められたという事実は大変重要で、創薬などの分野でAIシステムがツールとして利用されている事を背景に大きな意味を持ちました。2023年3月に審理が開始され、現在は判決を待っている状態です。
米国も、2022年8月に連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)が、AIソフトウェアシステムは「発明者」にあたらないとの判断を示し、2023年4月に最高裁判所が上告を棄却しました。
EPOでは、2022年7月に法律審判合議体が、マシンは欧州特許条約(EPC)の定義したでは発明者にあたらないとの判断を書面で下しました[2]。また、法律審判合議体は、EPOの拡大審判部(EPOの最高司法機関)への2件の争点についての上訴も棄却しました。
これらの判断を踏まえると、現時点では、特許出願にAIアルゴリズムを発明者として記載することは避けた方が望ましいと言えます。しかしながら、EPOの法律審判合議体は、「発明活動に関与する装置の使用者または所有者が、欧州特許法の下で発明者として指定することを妨げるような判例法は存在しないように思われる」とも述べています。これにより、審判部は、AIではなくAIの使用者または所有者を発明者に指定することで特許による保護が得られる可能性があるということを暗に示唆している可能性があります。
なお、以上の判断は、現時点の法律に基づいた判断であり、法律の改正が必要になった際、その判断は、裁判所ではなく立法機関に委ねられることになります。将来的にこの分野での法律が改正される可能性は十分にあります。例えば、米国特許商標庁 (USPTO)は、最近、AIおよび発明者の要件に関する意見を求めており、こういった事からも、この分野での法律の検討が続けられていることが分かります。AI由来の発明の重要性が高まれば、やがて特許法の見直しにつながるかもしれません。
1: 概要
1.1
公開広報の傾向
欧州におけるAI関連の特許出願は増加し続けており、以下の図1.1.1によれば、EPOでのAI関連の公開広報は、2022年まで毎年増加し続けている事を示しています。この伸びは緩和傾向にあるようで、2021年には19%であったAI特許出願の年間公開件数は、2021年から2022年にかけて約17%増加に留まっています。
「2021年~2022年のAI関連の公開広報の数は約17%増加」
AI関連の特許出願の増加率は、技術分野に関係なく欧州特許出願の全体としての出願傾向を大幅に上回っています。新型コロナの影響と思われますが、実際のところ、欧州特許出願の2020年の出願数は、2019年に対して0.6%減少しました[3]。その後、EPOの特許出願全体の増加率は2021年に4.5%4、2022年に2.5%となり、この傾向は逆転しましたが、AI関連の公開広報数の増加率はそれを遥かに超え、強い伸びを示しています。
図1.1.1 EPOで公開された各年のAI関連の特許出願数
出願係属中の出願
1.2
ここ数年、EPOは審査の迅速化を図り、出願の審査終了までの平均年数を短縮するよう努めてきました[4]。以下の図1.2.1は、この点に関するEPOの進展を示したものです。2021年に、AI関連の出願の平均年数が4年強まで短くなっています。ただ、短縮率が鈍化していることから、EPOの審査速度はここで落ち着くとみられます。同様に、審査終了件数の増加率も横ばい傾向にあります。
図1.2.1 AI関連の欧州特許出願の審査終了件数および審査終了までの平均年数
「2021年に、AI関連の出願から審査終了までの平均年数が4年強にまで短縮されています。しかし、短縮率は鈍化傾向」
以下の図1.2.2は、AI関連の出願の(2000年以降の)出願総数から各年に審査が終了した出願数を差し引いて計算した、各年の出願係属中のAI関連の出願数を示したものです。出願係属中のAI関連の出願数は2020年まで増加し続けており(注:出願が公開されるまでには18ヶ月の期間があるため、2020年までの出願係属中の出願数しか査定することが出来ない事に留意)、この分野でのEPOの審査の負担も毎年増え続けています。EPOは出願の審査終了までの平均年数の短縮を実現してきましたが、AI関連の出願の大幅な増加により、この傾向が継続できるかが注目されます。
図1.2.2 各年の出願係属中のAI関連の欧州特許出願数
国別データ
1.3
この章では各国の出願人によるEPOでのAI関連出願の公開広報の傾向について説明します。
図1.3.1各国の出願人による各年の公開広報の割合
「EPOでは、米国からのAI関連の特許出願数が最も多い」
図1.3.1は、各国からの出願数に対し公開広報の相対的割合を表したものです。2021~2022年は、韓国を除き、調査対象に含めた全ての国のAI分野の欧州特許出願数が引き続き増加しています。EPOでは2015年以降、米国が他国に大差をつけてAI関連の特許出願数が最多でしたが、米国以外の国々(特に、中国)からの出願増加が顕著となり、近年では米国からのAI関連の出願が占める割合は若干減少傾向にあります。
欧州特許条約(EPC)の加盟国のみを対象とした場合(EP[5])、2015年以降、米国とEPの出願数は拮抗しています。しかし、AI出願件数に関しては、ほんとんどの年で米国からの出願数が多いことが分かります。
2015~2021年の数年間、中国(CN)の出願数の増加は、その他の国々からの出願数の増加を上回りました。2021~2022年に至っては、中国からの出願数の増加は若干鈍化傾向にあるものの、日本(JP)、韓国(KR)およびその他の国々(RoW)の出願数の増加率も同様に鈍化しています。2015年以降、EPおよび米国の出願数の優位性は若干低下傾向にありましたが、2020年以降、この傾向が反転したことを示唆する兆候も一部確認されています。
図1.3.2 人口一人当たりの公開広報数 推移
人口一人当たりの特許出願に着目すると、異なる図式が見えてきます。韓国(KR)の人口一人当たりの公開広報の数は、好調であった2020年とは対照的に、2021年は一転、減少に転じました。それでも、韓国は、米国と僅差にはなりますが、EPOでの人口一人当たりのAI関連の公開広報の数が最多となっています。
「韓国は依然としてEPOでの人口一人当たりのAI関連出願の公開広報数が最も多い国」
EPOが「本拠地」の特許庁であるという点を踏まえると、EPの出願数の伸び率は、なおさら弱く感じられます。2015年以降、一人当たりで見ると、EP、JP、KR出願者は同様の出願数を記録していました。
近年のAIの進展は留まるところを知らず、今後も各国からの出願数が増加し続けるものと予想されます。しかしながら、国ごと出願数に相対的な変化をもたらす世界的トレンドが起こる可能性もあります。人口増加(減少)率の変化、オンショアリング/ニアショアリング(近隣ショアリング)、政府のAI政策および貿易摩擦等は、この数字に影響する可能性があり、その原因を理解できるまで数年を要する場合もあると考えられます。
「近年のAIの進歩は留まるところを知りません。今後、各国間の相対的な出願数に変化を引き起し得るような世界的トレンドが起こることも予想されます」
分野別データ
1.4
この章では、AI関連の特許出願を技術分野に分析します。一部の発明はAI自体の改良を目的としていますが、大半の特許出願は特定分野でのAIの応用を目的としています。
以下の図1.4.1は、過去22年間に公開された特許出願を技術分野別に分類したものです[6]。最も多い分野は医学・ライフサイエンス、電気通信および物理科学です。
図1.4.1分野別AI関連の欧州特許公開広報数
以下の図1.4.2に示すように、前回のAI調査以降、大半の分野でAI関連の出願数は増加し続けています。前回の調査で述べた2021年のモビリティ分野の公開広報数の減少は継続せず、2021~2022年では、同分野での公開広報数は増加しました。モビリティ分野は、今後もAI関連の発明に際し特許保護を必要とする重要な分野であることには変わりなく、2021年の減少が異例だったと考えられます。医学・ライフサイエンス分野は、引き続き大幅に伸びており、今後数年間に渡りEPOでのAI関連の特許出願として最も伸び率の高い分野になると予想されます。
「医学・ライフサイエンス分野は、引き続き大幅な伸び率。今後数年間に渡りEPOでのAI関連の特許出願が最も伸びる分野と予想」
図1.4.2分野別AI関連の欧州特許公開広報数
技術分野別の特許査定率は、ビジネスの23%からモビリティの62%までと幅広い事が分ります。以前同様、特許査定率が高くなる傾向にあるのは、EPOが「技術的である」と判断する分野であり、金融・銀行業やビジネスのように「技術的でない」と判断されがちな分野は、特許査定率が低くなります。モビリティ、農業、エネルギー管理、電気通信、セキュリティ、医学・ライフサイエンス、物理科学、芸術・人文学、地図学、軍事および法律・社会学といった以下の図1.4.3に黄色で表した分野は、いずれも平均を上回る特許査定率となり、娯楽、パーソナルコンピューティング、教育、ネットワーク、文書管理、出版、産業・製造業、政府関連コンピューティング、金融・銀行業およびビジネスといった以下の図に青色で表した分野は、平均を下回る特許査定率となっています。
図1.4.3分野別 特許査定率
なお、「ネットワーク」は特許査定率が比較的低い分野ですが、ここに含まれるSNS関連の出願がEPOから「技術的でない」と判断される可能性が高いためです。一方、音楽関連の出願を含む「芸術・人文学」は相対的に査定率が高い分野ですが、これはデジタルオーディオの進歩に関する発明をEPOが「技術的である」と判断していることが要因だと考えられます。「産業・製造業」も査定率が比較的低い分野ですが、ここには生産計画・製造計画に関するAIの特許出願が多く含まれ、これらは「技術的でない」と判断される傾向にありました。しかし同分野の査定率は増加傾向にあり、EPOが「技術的」と判断する技術発明を出願する傾向にシフトしている変化が反映されていると考えられます。また、「金融・銀行業」でも査定率は約20%あり、欧州でも同分野の特許取得は可能であることを示しています。
「注目すべきは、金融・銀行業のような分野でも約20%の特許査定率があり、欧州でもこの分野で特許取得が可能であることを示しています」
図1.4.4 各国の産業分野別の出願数比率(2010年以降)
図1.4.4は、2010年以降の産業分野別の出願数比率を出願者の国別に示したものです。モビリティ分野の出願は2018~2020年に各国で高い水準を記録し、その後は相対的に減少。2021年以降は先述の通り再び増加に転じています。特に日本の自動車産業においては、モビリティ分野のAI活用は非常に重要なテーマで、現在も日本からの出願のうち多くの割合を同分野が占めています。予想以上に技術進歩が困難な分野にも関わらず、日本の産業界は膨大なリソースをモビリティ分野でのAI開発に費やしていることが分かります。
先述の通り、医学・ライフサイエンスはAI関連の特許出願の大多数を占める分野ですが、韓国(KR)は傾向が異なっています。2010年を見ると、韓国からの同分野の出願比率は他国と比べて低く、2016年からは下降に転じ、2021年に再び増加しています。
欧州と米国は、分野別の出願数比率があまり変化していませんが、これは出願数そのものが他国よりもはるかに多いことが要因だと思われます。欧州からの出願の多くはライフサイエンス分野の特許です。また、米国からの出願については、分野別の割合にほとんど変化が見られません。
「欧州からのAI特許出願はライフサイエンス分野が多く、その割合も増加傾向にある」
2023年度のEPOの審査
指針の改訂内容
EPOの審査指針は、毎年改訂されています。前回の当事務所の報告書でも、AI出願傾向について述べた通り、2022年度に、審査指針のG-Ⅶセクション5.4.2内に、EPOがどのように進歩性を判断するのかについてのAIベースの例(「Example 5」)を追加する改訂が行われました。2023年度の改訂では、この新しい「Example 5」に、変更点が加えられました。審査指針に示された事例は、EPOの審査官に発明の技術的特性を理解させ、出願した特許が付与を受けられるための説得材料となるため、これらの改訂は重要な情報となります。
「Example 5」は、工程パラメータがニューロファジー制御器(ニューラルネットワークとファジー論理ルールとを組み合わせたもの)により自動で調節される、熱噴射コーティング過程に関するものです。先行技術が存在しない場合、この請求項はEPOによって特許が付与されると考えられます。しかし、「Example 5」では、先行技術文献D1も考慮されます。文献D1はニューラルネットワーク解析によって工程パラメータを自動で調節する技術を説明しています。したがって、「Example 5」と文献D1の相違点は、ニューラルネットワークとファジー論理ルールを組み合わせたニューロファジー制御器の利用に関するものとなります。
ニューラルネットワーク解析の結果とファジー論理ルールとを組み合わせるこの特徴は、数学的方法を定義します。しかし、工程パラメータを調節するという技術と組み合わせることで、コーティング過程の制御を助け、特定の技術過程を制御することは、EPOでは技術の応用と判断されます。よって、文献D1との相違点は数学的方法を使用する点であり、その数学的方法が技術過程を制御する役割を果たすことから、EPOが要求する技術効果は存在すると考えられます。
ただし、「Example 5」では、第二の先行技術文献D2も考慮されています。同文献には、ニューラルネットワークとファジー論理ルールとを組み合わせたニューロファジー制御器を制御工学の技術分野に応用する技術が開示されています。文献D2に基づき、「Example 5」の請求項1はEPOによって自明性があるとみなされました。しかし、「Example 5」でのEPOの説明を読むと、文献D2が存在していても、明細書や特許請求の範囲にさらなる詳細が記載されていた場合には、別の結果になっていた可能性を示唆しています。具体的は、「請求項1には、達成すべきコーティング過程の特性に関する情報が記載されていない。」や「ニューロファジー制御器の特徴は、熱の技術的性質と結び付けられていない。」と述べられていました。
2023年度の改訂により、「Example 5」についての説明をより明確化し、次のように述べています。「制御工学の分野でのニューロファジー制御器の一般的な教示の存在により、請求項1のコントローラが明らかな代替手段であるという異議が生じました。この特定の異議は、請求項が熱噴射コーティング過程の一部の技術的特性に関連する、さらなるファジー制御方法の特徴を記載しておくことで回避できた可能性がある。望ましいコーティングの特性がニューロファジー制御器の特定の入出力変数から生じた場合、制御器の学習方法や出力が工程パラメータの調整にどのように使用されるか、これらの特徴は請求項に記載される必要があった。出願時の明細書や図面も、所望のコーティングの特性が実際に達成されるという証拠になり得る。」
審査指針の改訂点は、特許出願中にモデルに対する入出力の詳細、学習工程、モデル出力の利用等のAI発明の詳細説明を含めることがEPOで重要になるという点を強調しています。上記に記した詳細は、EPOで特許付与を得るのに極めて重要となります。
特筆すべき点として、本年度の改定においては数学的方法(G-II, 3.3)および人工知能・機械学習(G-II, 3.3.1)に対する基本姿勢への変更がありませんでした。これは、AI発明に対するEPOの基本姿勢が既に固まっていることを示唆しています。
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技術別データ
1.5
この章では、AI関連で出願される特許の対象となるAI技術の種類について分析します。EPOでは特許性の判断がAI技術の種類によって異なるため、それが出願傾向に与える影響は注目に値します。技術の進歩や市場での競争力などの影響もありますが、EPOによる技術ごとの判断の違いが出願戦略に大きく影響しているのは間違いないでしょう。
図1.5.1 AI関連の欧州公開広報の技術別割合の推移
例えば、EPOではテキスト処理よりも画像処理・音声処理技術の方が「特許性がある」と判断されやすい傾向にあります。これは過去の判例の中で、テキストや自然言語に対しては「認知的なもの」と判断した一方、画像や音声は「物理法則に基づくデータ」という認識を示したことに起因します。
そのため、自然言語処理に分類される出願は、コンピュータビジョンや音声処理に分類される出願よりも査定率が低くなると考えられます。次章で詳述しますが、このことはデータにも表れており、2016~2021年に出願された特許の査定率を分類別に見ると、「コンピュータビジョン」は54%、「自然言語処理」は38%となっています。
単純に考えると、査定率が低い分野に対しては出願数の割合も低くなると思われますが、データは少し異なる結果を示しています。図1.5.1によると、2022年に自然言語処理(953)に分類された出願数は、音声処理(511)やロボティクス(745)、制御方法(601)よりも多いことが分かります。
当事務所の2022年の報告では、音声処理に関する特許出願の割合が減少した理由のひとつとして、今日の音声処理技術が業界の目標レベルに達した可能性があることを挙げました。対照的に、近年の大規模言語モデルの成功が物語るように、自然言語処理に関する技術開発はAI分野の最前線に位置しています。これが、EPOからの特許適格性の判断が低いにも関わらず出願の割合が高い要因だと考えられます。
以前の報告書でコンピュータビジョン関連の技術が成熟するにつれて、同分野の出願数が相対的に低下すると予測しましたが、2022年のデータではそのような傾向は見られませんでした。むしろ2021~2022年にかけてコンピュータビジョン関連の出願は35%から36%へと微増しています。興味深いことに、近年の言語処理技術の発展によってマルチモーダルモデルが生まれ、これがコンピュータビジョンや画像処理にも画期的な進歩をもたらしました。そのため、上記の予測が現実となるのはまだ数年先のことかもしれません。
前回の当事務所の報告書では、実社会においてAIの活用が進めば、それが特許出願数にも反映されると予測しました。実際、ロボティクス関連の出願の割合は2017年以降増加を続けています。一方、2015年から増加を続けていた制御方法関連の出願の割合は、2021年(11%)から2022年(8%)に大きく減少しました。ただし、これはAI産業の中心が一時的に自然言語処理やコンピュータビジョンへとシフトした結果だと考えられます。したがって、将来的に制御方法関連の出願割合が増加に転じることは十分に考えられます。特筆すべき点として、同分野の技術は実際の経済活動に直結しているため査定率が非常に高く、2016~2021年に出願された72%が特許査定を受ける結果となりました。
「2017年前後以降、ロボティクス関連の出願の割合は増加中」
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特許査定率
1.6
図1.6.1 AI関連の欧州特許出願と全欧州特許出願の査定率の推移
欧州特許におけるAI関連の出願に対する査定率は2015年以降おおむね増加傾向ですが、2019~2021年にはわずかな減少が見られました。2021年以降は再び増加に転じ、2022年7には54%を記録。減少が見られた期間は、全欧州特許の査定率が横ばいだった時期とも重なりますが、いずれの期間もAI関連の査定率は全欧州特許を下回っています。全体の査定率が2022年8に76%を記録したことを考慮すると、コンピュータ上で発明が生み出されるAI関連の技術を保護対象として認めるのは困難であることを示唆しています。
2015年以降、Marks & Clerk経由で出願された案件の特許査定率は、欧州の他の事務所経由で出願された案件の査定率を上回っています。2022年に審査終了を迎えたMarks & Clerk経由のAI関連出願の査定率は66%に対し、他事務所経由の査定率は53%でした。
図1.6.2出願年別のAI関連の欧州特許出願の査定率
審査終了年ごとに見ると、AI関連の査定率は増加傾向にありますが、出願年別に見ると2015年以降は減少傾向にあります。
そこで、審査終了までに要した年数別の査定率をグラフに表すと、興味深い事実が見えてきます。(図1.6.3)
図1.6.3審査終了までの年数で見た平均特許査定率
従来、比較的早期に審査が終了する出願は査定率が高く、係属期間が長期化するほど査定率が低下する傾向にありました。これは有効性に関しての問題が多い出願ほど審査が長期化し、審判請求が行われる可能性も高くなることが原因だと考えられます。対照的にAI関連では係属期間3年未満の短い出願ほど査定率が低いことが分かります。この背景として、調査報告の中でEPOから多くの拒絶理由が挙げられるなどの理由で、出願人みずから出願を破棄しているケースが多発していることが考えられます。
「近年、EPOに出願されるAI関連特許のうち、早期に拒絶される割合が増加しています。新たな出願に対し、より多くの特許が査定を受けることで、今後は査定率も改善していくと予想しています」
図1.6.4 技術別の特許査定率の推移
AI技術の種類ごとに査定率を分析するため、図1.6.4では各年の査定率の変化を線グラフで示しています。2022年には5種類の技術のうち4種類が50%を超えるという興味深い結果となりました。また、コンピュータビジョン関連の特許は2015年以降、特に大きく査定率が上昇しています。
自然言語処理(NLP)は、長らくEPOから「技術的でない」と判断されてきた分野ですが、査定率は緩やかに増加を続け、2022年には40%近くに達しています。これは大規模言語モデルの開発に携わる企業にとって喜ばしい結果と言えるでしょう。
生成AIに対する終わらない論争
生成AIは、特に学問や芸術創作の場で道徳的、法的な課題を生んでいます。これらの問題は大きく3つのカテゴリに分けられます。
これらの問題に対し、メディアや法整備の場で議論が行われているほか、2の問題に関しては訴訟に発展しています。
品質に関する懸念
AIの学習用データに内在する偏り(バイアス)によって生成物にも偏りが生じる可能性について、多くの有識者や監査官庁が懸念を示しています。また、LLM(大規模言語モデル)に使用されるデータ自体に矛盾や欠陥がある場合、生成された文章が事実と異なる「ハルシネーション(幻覚)」を引き起こします。極端な例ですが、2022年7月にニューヨークの弁護士2人がChatGPTで生成した架空の判例を含む裁判資料を提出し、罰金が科せられました。裁判官によると、提出された資料の一部は支離滅裂で意味の通らないものでした。
これらの理由から、生成AIを利用する際は、その方法やタイミングに細心の注意を払う必要があります。生成AIを活用したサービスを提供する事業者は、その機能や有効性をどこまで保証するのか検討しなければなりません。損害賠償に対する免責についても、利用規約に定める必要があるでしょう。ユーザー側も利用規約に目を通し、思わぬリスクを被らないように注意しなければなりません。
著作権の侵害
生成AIは第三者が所有する素材を大量に検索し、複製しているにも関わらず、その規模があまりに大きく複雑なため、問題を特定するのが非常に困難です。不正利用が疑われる事例も多く、訴訟に発展するケースも少なくありません。例えばGetty Image社はStability AI社に対して訴訟を起こし、教科書出版のPerson社は自社のコンテンツを言語モデルの学習に利用するのを停止するよう、あるAI企業へ書面で要請しました。Stability AI社はGetty Images社からの訴訟以外にも、別の集団訴訟でMidjourney社およびDeviantArt社と並んで提訴されており、Microsoft社、Github社、Open AI社もオープンソースライセンスの規約違反を理由に訴訟を起こされています。最近ではコメディアンのSara Silverman、ベストセラー作家のChristopher GoldenおよびRichard Kadreyが、著書の不正利用を理由とした集団訴訟をOpen AI社とMeta社に対して起こしています。これらの訴訟がどの程度の損害につながるかは今のところ不明ですが、原告側に有利な判決が下れば、生成AIを活用した事業を手がける企業にとって大きな打撃となる可能性があります。
対策として考えられるのはSpotifyのようなライセンスモデルです。同様のケースとして、AP通信社はOpen AI社とアーカイブ記事の利用に関するライセンス契約を締結しました。このようなライセンスモデルは生成AIを巡る問題の解決策となる可能性があります。
対エンドユーザーの動きとしては、Shutterstock社が自社のライブラリ内にあるAI画像の利用によって生じた賠償責任への補償をユーザーに提供しています。ただ、補償額には上限があり、実際に著作権侵害で訴訟を受けた場合はこの額を上回る可能性もあります。生成AIを利用する際には、相応のリスクがあることをユーザー側も認識すべきと言えるでしょう。
監督官庁も動き始めています。EUでは「EU AI Act」法案の中で、生成AI事業者が第三者のコンテンツを利用する際に、引用元を含むすべての情報を開示することが義務付けられる予定です。これは、かつてのGDPRの問題と同様に、EU内でAIを利用する事業者にとって大きな負担となる可能性があります。中国でも同様の規制を盛り込んだ暫定措置が取られ、合法的な情報源からのデータ引用や第三者の知的財産権の順守、同意に基づく適法な個人情報の利用が求められています。一方、日本の当局は過度な規制によってイノベーションが阻害されることを懸念し、第三者が所有する素材のAIによる使用を「侵害」ではなく「インスピレーション」と捉えるなど、柔軟な姿勢を保っています。
他方、シカゴ大学は実用的な解決策として、第三者が所有する画像をAIが許可なく収集するのを防ぐ加工技術、「GLAZE」を提唱しています。
先述の通り、プライバシーの侵害も生成AIによって起こりうる問題のひとつです。他の著作物と同様に個人データも瞬時に検索され、本人の許可なくAIの学習に利用される可能性があります。これまでに何百万人もの写真が本人の知らないところでAIの画像生成プログラムに利用されてきたと考えられ、「ディープフェイク」のような新たな問題も注目を集めています。
著作権の所在
多少の差はあるものの、「著作権や特許権は人間による創造的行為がなければ発生しない」というスタンスが世界的なスタンダードです。言い換えれば「AIが生成したものは保護の対象ではない」ということです。米国では、AIによる生成物でも人間が創作した部分は保護され、AIが生成した部分は保護されない、という部分的な著作権登録の事例も生まれています。
当然ながら、この登録は「著作物として保護を受けるためにAIの生成物を利用している」として批判を浴びました。年月の経過とともに、人間の創作とAIの生成物を見分けるのはさらに難しくなっていくと思われます。
結論
違法ダウンロードや遺伝子特許、データプライバシーなどの問題と同様に、生成AIを巡る論争も急速な技術革新に法整備が追い付いていないケースです。いずれは論争も落ち着き、法整備も進むと思われますが、問題がなくなるわけではなく、地域によって差が生じるのは間違いありません。過去の例を見る限り、規制がもっとも厳しいのはEUでしょう。各国共通の統一ルールを作るのが理想ですが、残念ながら実現は不可能だと思われます。
© 2023 Marks & Clerk
2: メドテック
2.1
公開広報の傾向
メドテックはAI関連の特許出願の中でも急速に成長し続けている分野です。図2.1.1を見ると、2022年に公開されたAI関連のメドテック公開広報の数は、2018年の約4倍に急増しています。
図2.1.1 EPOでの各年のメドテックAI関連の公開広報数
図2.1.2は、AI関連の公開広報数の前年比増加率を、メドテック分野とAI関連全体で比較したものです。2014~2022年にかけて、いずれの年もメドテック分野が全体を上回っているのが分かります。
図2.1.2 EPOにおけるAI関連公開広報数の前年比増加率(メドテック分野とAI全体の比較)
「2014~2021年にかけて、メドテックAI関連特許の公開広報数の前年比増加率は、すべての年でAI関連全体を上回っている」
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図2.2.1 2022年度にEPOで公開されたメドテックAI関連特許出願のサブカテゴリ別割合
図2.2.1の通り、もっとも割合の多いサブカテゴリは「医用画像」と「診断」です。医用画像に関するAI技術は診断の補助にも用いられるため、「医用画像」に分類した公開広報の多くが「診断」にも分類されるなど、サブカテゴリ間の重複も考えられます。
「創薬系」のAI特許出願は非常に少なく、2022年度に公開された出願数は12件のみでした(図2.2.1のグラフに表せないほど少ない割合でした)。同分野への注目が高まっていることを考慮すると予想外の結果ですが、これには複数の原因が考えられます。ひとつは単純に技術がまだ成熟していないためで、これは時間の経過とともに解消するものと考えられます。また、明細書の内容、自明性、技術的効果の立証など、特許性への懸念から発明者が出願を見送っている可能性もあります。ただ、当事務所の統計によると同分野の出願は査定率が高く(図2.3.1参照)、このような懸念は誤解といわざるを得ません。長期的な戦略として発明者が創薬ブラットフォームの成果物だけを特許化し、アルゴリズムそのものは社外秘にしていることが実際の理由として考えられます。
図2.2.2 EPOにおけるメドテックAI関連特許出願の技術別割合
次にメドテック関連の出願を技術ごとに分析します。AI関連特許全体と同様に「コンピュータビジョン」がもっとも多いことが分かります。これに「予測分析」が続きますが、この「予測分析」の割合がAI全体に比べて多いことがメドテック分野の特徴です。先ほどのサブカテゴリの分析で「創薬」の割合が少なかったことを考えると、メドテック分野のイノベーションは「治療」よりも「予測・予防・早期診断・早期発見」に照準を合わせていることがうかがえます。
「メドテック分野のイノベーションは、治療よりも予測、予防、早期診断・発見を重視していると考えられます」
図2.2.3 EPOにおけるメドテックAI関連公開広報のサブカテゴリ別割合の推移
図2.2.4 EPOにおけるメドテックAI関連公開広報のサブカテゴリ別増加率
メドテックAI関連の公開広報の傾向をサブカテゴリ別に分析すると、2022年に伸び率が鈍化したものの、全体の出願数は増加を続けています。唯一の例外は「創薬」で、2021年から約30%減少し、2018年の水準まで戻っています。
「バイオインフォマティクスは、前年よりも増加が加速している唯一のサブカテゴリである」
対照的に「バイオインフォマティクス」は前年を上回る勢いで増加している唯一のサブカテゴリで、前年比増加率が2021年の41%から2022年は54%に上昇しました。これはWIPO(世界知的所有権機関)の分類システムが、新たに注目されている同分野にも対応した結果とも考えられます。あるいは、「バイオインフォマティクス」が他の技術分野に対しても高い汎用性を持つことが背景にあるのかもしれません。実際、多くの出願が複数のサブカテゴリに関連していますが、「バイオインフォマティクス」関連の出願は特にその傾向が強いと言えます。一方で「医用画像」関連の出願は他のサブカテゴリとの関連がもっとも少なく、そのことが同分野の出願数の多さをさらに際立たせています。
最も成長スピードの著しいメドテック分野であるバイオインフォマティクス関連の出願の2020年以降の特許査定率は、業界平均が57.8%であったのに対し、Marks & Clerkが関わった案件の査定率は83.3%でした。
図2.2.5 各国からのメドテックAI関連特許出願のサブカテゴリ別割合の推移
図2.2.5は、2015~2022年にかけてのメドテックAI関連特許の公開広報数の割合を、出願人の国別に示したものです。
米国からの出願と欧州からの出願は、特に2020年以降、割合の推移が非常に類似していることが分かります。「バイオインフォマティクス」の割合がもっとも高いのは米国で、2016~2017年の中国を除き、この傾向は一貫しています。米国と韓国に関しては、「診断」の割合が減少し、それ以外の「医療ロボティクス」「医療用補装具」「医療用インプラント」などが増加しているという共通点があります。
「医用画像」は東アジアにおいて、メドテックAIの重点分野となっているようです。中国からの出願のうち「医用画像」の割合は2018年から2022年にかけて59%にまで拡大。同様に日本からの出願においても「医用画像」の割合が他国の平均より高いことが分かります。
「医用画像は、アジア・極東地域におけるAIメドテック関連の発明の重要な分野になっているようです」
異議申立
2.4
異議申立は、欧州特許の査定から9か月間、その有効性について第三者が問題を提起できる手続きです。
図2.4.1 サブカテゴリ別のメドテック関連の特許の異議申立の割合(確率)
2000年以降に査定されたAI関連特許の2%弱が異議申立を受け、メドテック分野に絞ってもほぼ同水準の結果となりました。興味深いことに、「医用画像」は異議申立を受けた割合が全体の半分以下で、約1,000件の査定に対して異議申立を受けたのは10件にすぎません。一方、「創薬」では計24件の査定に対して2件と、高い確率で異議申立を受けています。背景として考えられるのは、「医用画像」については技術的効果が明確な場合が多く、異議を申立てるのが難しい点です。実際、EPOの審査指針では、低レベルの特徴に基づくデジタル画像の識別をAIの技術的応用の一例として具体的に紹介しています。一方で、「創薬」においては特許の重要性が高いために、他のサブカテゴリに比べて異議申立を受けるリスクが高いと考えられます。
「医用画像についてのAI関連特許は、異議申立の確率が、平均の半分以下となっています」
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埋め込み分析
2.5
図2.5.1 サブカテゴリ別メドテック特許の請求項間の意味的類似性を可視化した図
今年度の報告では、弊所のデータセット内の各特許の請求項1について、機械学習モデル(PatentSBERTa)を用いてそれぞれの意味的な類似性を可視化する分布図を作成しました。このモデルは、複数の文章間の意味的な類似性を解析するために利用される自然言語処理モデルです。
このPatentSBERTaについて詳述すると、請求項の文章の続きを予測するだけでなく、IPC(国際特許分類)やCPCコードの予測も含め、さまざまな特許関連のタスクを行うために改良されたsBERTです。このモデルを活用すれば、特許の請求項をより高次元空間埋め込み表現を取得する事が理論上可能になります。
今回の報告で採用したIPCによるメドテック分類システムに沿って、請求項のクラスタリングを実施。その結果を示した図2.5.1では、1つの点が1つの特許の請求項の意味的な分布を示しています。点が密集している所は、意味的に類似した請求項の集まりを表し、点の色はメドテックのサブカテゴリごとに分かれています。それぞれのクラスタを調べることで、PatentSBERTaが様々なメドテックのサブカテゴリからの請求項を正確に解析しているかどうかを確認することができました。
全体的に見て、PatentSBERTaによる各請求項の埋め込みのクオリティは比較的高いようです。「診断」と「医用画像」は、それぞれ顕著なクラスタを形成しています。「バイオインフォマティクス」もクラスタを形成しているものの、周辺にも広く点在しています。先述の通り「バイオインフォマティクス」は他のサブカテゴリと結びつくことが非常に多く、それが分布図にも表れていると考えられます。これらの分析から、機械学習モデルは特許の請求項の比較分析にも活用できると言えるでしょう。
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3: 今後の展望
EPOにおけるAI関連の特許出願については、今後も欧州と米国がリードする構造に変わりはないでしょう。ただし東アジア、特に中国からの出願数も増加しています。現在、中国の五カ年計画でAIは重点項目のため、この傾向は今後も続くと思われます。
また、AIへの規制が特許出願の傾向に与える影響にも注目する必要があります。現在、検討されている「EU AI Act」法案はGDPRの規制と同様に、EUにおけるAI開発の大きな障壁となる可能性があります。より規制の緩い国や地域に対し、EUではAI関連特許を巡る動きが停滞する可能性もあります。
特許の出願から公開まで18か月のタイムラグがあるため、最新の特許データには昨年の生成AIブームがまだ織り込まれていません。その将来的な影響については、今後注視する必要があるでしょう。
近年、LLM(大規模言語モデル)が大きな成功を収めているものの、NLP(自然言語処理)関連の発明に対してEPOが否定的な姿勢を見せてきたことを考慮すると、EUで特許査定が急増することは考えにくいでしょう。ただし、NLP関連の発明に対する「技術的でない」というEPOの見解は、審判の対象となるかもしれません。見解が覆れば、LLMを含むNLP関連の発明への保護範囲が大きく広がる可能性も期待できます。
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著者
マイクはデジタル テクノロジー、特に AI 関連の特許分野の専門家です。 マイクは、過去 20 年間にわたる人工知能の急速な発展が欧州特許庁の特許出願に与えた影響を調査する AI レポートのリード パートナーです。
Mike はマンチェスター大学で修士号を取得しており、コンピューター サイエンスのバックグラウンドにより、デジタル テクノロジーのあらゆる分野にわたるクライアントの発明を理解するための理想的な技術基盤が得られます。 人工知能に加えて、マイクは、信号処理、画像分析、通信プロトコル、コンピューター グラフィックスなどを含むコンピューター サイエンスのさまざまな側面に関連する特許問題において豊富な経験を持っています。 マイクは、リソグラフィ システム、アナログおよびデジタル エレクトロニクスの専門家でもあります。
マイクは、技術的な専門知識とビジネス ビジョンを活用して、大規模な多国籍企業から大学、中小企業に至るまで、幅広いクライアントにコンサルティング サービスを提供しています。 マイクは国際的な業務を行っているため、世界中で特許の作成と出願に精通しているだけでなく、議論の多い問題についてクライアントにアドバイスを行っています。
Matthew は、特にコンピュータと医療機器に重点を置いた、ハイテク分野の幅広いクライアントにコンサルティング サービスを提供しています。 2011 年に Maxitech に入社して以来、電気通信、機械学習、医療機器、不揮発性半導体メモリのイノベーションの保護に積極的に取り組んできました。
Matthew は、さまざまなプログラミング言語でのニューラル ネットワークに関する豊富な経験があり、人工知能と機械学習の分野で複数のクライアントを代表しています。
Matthew は、幅広いテクノロジーをカバーする英国、ヨーロッパ、および国際特許を数多く作成し、申請してきました。 また、欧州特許庁におけるクライアントの上訴および異議申し立ても支援します。 特にワイヤレス ネットワークとビデオ コーデックにおける電気通信の経験により、訴訟手続きや欧州の異議申し立て手続きにおける技術標準の適用性と特許の有効性についてアドバイスすることができます。
Lara の業務の多くは、人工知能の分野における発明の保護に関係しており、自然言語処理、医療画像処理、ホーム オートメーションなどの分野でのアプリケーションに関する豊富な経験を持っています。
彼女は AI イノベーションに関連する特許について世界中のクライアントにアドバイスを行っており、欧州特許庁の AI へのアプローチについて日本で何度も講演を行っています。 人工知能の研究に加えて、ララはソフトウェアとエレクトロニクスの幅広い技術、特に暗号化、農業技術、ビデオコーディング (標準の重要性評価を含む)、医療機器、無線ネットワーク、光学機器、半導体装置に取り組んできました。
ララは、欧州特許庁における口頭訴訟においてクライアントの代理人として成功しており、欧州特許庁における異議申し立ておよび控訴手続きの経験もあります。 Lara は、個人の発明家から中小企業や大規模な多国籍企業に至るまで、あらゆる規模のクライアントを代表しています。 彼女は、ヨーロッパ、米国、中国、日本を含む複数の管轄区域での出願経験があります。
サイモンはテクノロジー企業の商事契約弁護士を専門としています。 彼はエレクトロニクス、バイオサイエンス、防衛、ソフトウェア、ナノテクノロジー、クリエイティブ産業のクライアントにサービスを提供し、小規模な新興企業から大規模な多国籍企業、個人、公的機関、慈善団体にアドバイスを行っています。 彼は会社の拡張現実チームを率いており、この立場で Immerse UK や XR Nation などの拡張現実組織のメンバーに専門的なアドバイスやトレーニングを提供しています。
彼は、ライセンス、研究開発協力、生産契約、調達文書など、さまざまな契約についてアドバイスを行っています。 規制面では、臨床試験規制の順守、新たな食品用途、情報の自由とデータ保護の問題についてアドバイスを行ってきました。
Simon は、『Business Issues for Life Sciences Companies』および『Intellectual Property: The Lifeblood of the Company』という 2 つのビジネス教科書を共著しており、Financial Times、Patent World、Intellectual Property Management Publish の記事など、数多くの出版物で取り上げられています。 彼は英国および国際的な製薬会議で定期的にセミナーやワークショップを行っています。 また、英国知的財産局の運営グループのメンバーでもあり、中国での研究開発協力のための適切なポリシーと契約の策定を担当しています。
弁理士
サミュエルは、生物学と物理学の自然科学の学士号を取得して、2016 年にダラム大学を卒業しました。 その後、ロンドン大学クイーンメリー校で知的財産法と知的財産管理を学びました。
2019 年に Maxi に入社して間もなく、サミュエルはキングス カレッジ ロンドンで高分子 X 線結晶構造解析と単粒子クライオ電子顕微鏡の分野で分子生物物理学の研究修士号も取得しました。
ジェレミーは、2021 年 10 月にマンチェスター事務所の弁理士見習いとして Maxx に入社しました。 彼は 2020 年にリバプール大学を卒業し、コンピューター サイエンスの理学士号を取得しました。
当社に入社する前は、感情分析、信号分類、画像生成、音声合成、意味的類似性分析、強化学習アルゴリズム取引、特許分析など、多くの応用人工知能プロジェクトに携わっていました。